ある農家のお庭の一角に、小さな柿の木がありました。その木には、たった一つだけ、ほどほどに大きな柿の実がなっていました。秋の味覚の時期だというのに。いくつもの美しい柿色の玉が人間の目を肥やし、食欲をそそる旬の果物だというのに。葉っぱもほぼなく、枯れかけているのかと思えるほど元気のない枝に、落ちてたまるかと言わんばかりの柿でした。
桃栗三年柿八年と言うけれど、小さな苗から大きくなった柿は、ここに来てから数年で実を付け始めました。育ての農家はとてもうれしくて、大事に育てていましたら、今年は、木が折れるのではないかと心配するほど、たわわに実を付けたのです。育ての農家の喜びようと言ったら、もう。
そして、まだ実が柿色になる前に、あの日が来たのです。・・・台風は鹿屋の地を荒れ狂い、後日人間の口に入るであろうはずの柿の実たちが、まだ青いまま大地の上に振り落とされました。育ての農家の嘆(なげ)きようと言ったら、もう。
それでも、たった一つの実だけが、まだくっついていました。落ちそうだけど、落ちずに。
その柿は、落ちた柿の分の養分を全部自分のものにし、みんなの分まで柿色になって美味しくなってやるんだと決意し、落ちない程度に大きな柿の実になったのでした。
柿の実、頑張った!
あとは、その決意を胸に、カラスに落とされて、食べられないよう注意を怠らず、いつか育ての農家のお口の中にお入り頂けるよう願っております。うふふ。
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